omoi

リハビリ

ひらひらがついた赤いうきわをふーーっと膨らませている。

まだ短い髪を頭のてっぺんで括ってふわふわのちょんまげにして、水着とTシャツを着せてもらって、手を繋いで海まで歩く。

眩しい日差しのチリチリとした感覚が腕を走る。

 

初めて近くで見た海は、透明で、柔らかくて、優しい音がした。

引いて寄せる波のかたちを捉えたと思ったら次の波は少しだけかたちを変えて、その次の波のかたちもまた少しだけ変わる。同じかたちを捉えたくて、変わり続ける波が生きているみたいで、暫くじっと眺めていた。

足先を浸した海は少しだけ冷たくて、波が寄せると足がひんやりと海に包まれ、引くと足裏の砂も一緒にしゃりしゃりと動く。

 

うきわに足を入れて、腕でしっかり掴むように促され、少しだけ深いところに足を進めた。

胸元まできた海は足先だけよりも少しだけ強く、でも優しく包まれるようで、うきわと身体の間に入った波がぽちゃぽちゃと音を立ててぶつかる。

うきわに掴まりながら歩こうとすると、海に優しく引き留められて緩慢な動きになる。アニメキャラクターみたいに空を飛んでるようで面白くて、うきわを引く手の主を見上げる。

 

足を浮かせてみるよう言われて、ゆらゆらと揺らされるうきわに身体を預ける。ふわふわするような心許ない浮遊感に手足が強張るも、心許ない感覚にも慣れてきて少しずつ緊張を解いてみる。波に踊るうきわのひらひらと、透き通るうきわの向こう側の海が一緒に動いていた。

 

もう少し近くで見たくなって、うきわに耳を当てる。水面が目の前で揺れる。うきわに波があたる音が響く。

目を閉じるとまるで海の中にいるような気がして、だんだんと溶けていくような気がして、それがあまりにも優しくて心地良くて、ずっと揺らされるうきわに身を預けていた。

 

海から離れるにつれ、ふわふわと軽やかだった身体が、名残惜しむかのように重くなる。

帰りは抱き上げる腕に寄りかかり、うとうとしながら帰路についた。

 

一番古い記憶、齢2歳、石垣島、自宅近くの海にて。